私にとっての賢治 English

奥田 博さんインタビュー

賢治に関係のある山をひとつひとつ整理されてますね
賢治の山を意識してのぼり始めたのは、15年くらい前から。手探りで始めたんです。作 品を読んで、山の記述があると付箋紙をペタッと貼って。賢治のすごいのは、造語だと思っていた、例えば「ホポカテペトル」という山はメキシコにあって、登りに行ったんですけど、5500mくらいの山。こういう情報を、当時の賢治が持っていたのが私は驚きですね
賢治の山を登る楽しさはどんなところにありますか?
山はいろいろ登り方がありましてね。狼森(オイノモリ)などに行くと、すごい薮山 なんです。だから登山の対象ではない。人もいない、道もない山ですから、300m の山だから簡単そうだけど、ところが大変な薮で、山頂の杭すら探せないんです。で もね、それがいい。そこは1人の小宇宙なのね。落ち葉がどさっとある所で、お湯を 沸かして、お茶飲んで、こうひっくりかえっている。そういう時間に、賢治だとこの 山はこんな歩き方しないなとか、いろいろ想像が始まるんです。それから、夜、テントを 張って寝るとね、自分1人になれる。賢治も野宿してるシーンがいくつも出てくるけど、賢治は寝るときもオーバーコートで寝ちゃうんですよね。そういう、ゴロンと横になるときが、賢治と出会えるいいチャンスですね。
普通の農民が山に登るというやり方があったんでしょうか?
山のひとつの楽しみ方にアルピニズムという考え方があるんですけれども、例えば同じピークに立つならもっと厳しいルート、厳しい季節をっていうふうに、自分に厳しさを課していくことなんですけど、半面、簡単な所を山頂まで行って、寝っころがって 景色を見て帰ってくるのも山を楽しんでるんですよ。賢治はアルピニズムでない山の楽しみ方をしてきている。どちらも遊びでありながら、同じ遊びの中でも質が違う。 賢治は山に一緒に溶け込んじゃう。賢治は風と光からエネルギーを取れって言ったんですね。まさにそれは自然の中で寝っころがって、そういうときに一番感じられると思いますけどね。

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奥田 博さんのプロフィール
  • 仙台市生まれ、福島市在住。
  • 冬の山スキー、夏の沢登り、薮山歩きを愛する登山家。
  • 「福島百山紀行」(歴史春秋社)、「山スキーの本」(白水社)、「みちのく百山 百湯」、 「山形県の山」(山と渓谷社)、「宮沢賢治の山旅」(東京新聞出版局)等 多数の著書がある。
  • 東北山岳写真集団に所属。
  • 高山の原生林を守る会会員、宮沢賢治学会会員。

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