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よだかの星

地上生き物の星への憧れ




つらさをエネルギーにした遠い空への飛翔

 賢治の物語には、地上の鳥や植物などが天界の星に憧れたり、祈ったりする話が多い。
 しかし、天界の星たちは、地上の生き物たちの手がなかなか届かない永続的な秩序に属しているらしく、地上の者が星になるには例外的に大きなエネルギーが必要になる。
 鳥仲間にさげすまれ、とてもつらい思いをしたみにくいよだかは、極度のつらさからエネルギーをえて、夜空をどこまでも飛んで燃え上がって星になる。

みにくいよだか  「よだかは、実にみにくい鳥です。顔は、ところどころ、味噌(みそ)をつけたやうにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけてゐます。」というように、話の最初からよだかのみにくさが強調される。
 それで、他の鳥たちは「鳥の仲間のつらよごしだよ。」などとひどいことを言う。名前は、よだかと鷹に似ているが、それは鳴き声がするどく鷹に似ていたりするせいで、鷹の兄弟ではない。実際はよだかは羽虫などを食べるのだ。
 だから、弱い鳥もこわがることはなかった。
鷹からの脅し




空の彼方に飛んでいきたい
 それどころか、鷹からまぎらわしい名前をやめて「市蔵」に変えろと因縁をつけられる。そうしないと殺してしまうと脅される。鳥の仲間たちにさげすまれたうえ、鷹におどされてあまりにつらくなったよだかは、鷹に殺される前に「遠くの遠くの空の向ふに行ってしまはう。」と考え、夜明けにお日さまに向かって飛びながら言う。
 「お日さん、お日さん。どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。灼(や)けて死んでもかまひません。私のやうなみにくいからだでも灼けるときには小さなひかりを出すでせう。」しかし、お日さまには、ひるの鳥ではないのだから夜、星に頼んでごらんと言われる。




星になったよだか
 夜になって空を飛びながら星たちに頼むが、思い上がった願いを星から馬鹿にされる。それでも、よだかはどこまでも空をのぼっていき、だんだん感覚がなくなりとうとう命が絶える。しばらくして、よだかはまなこをひらき「自分のからだがいま燐(りん)の火のやうな青い美しい光になって、しづかに燃えてゐる」のを見る。
 そしてよだかの星は燃えつづけ、今でも燃えつづけていると語られる。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 5〜『よだかの星』」より
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