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狐は人をだますか

人の子と狐の子の無垢な心の出会い
 昔話では、どういうわけか狐や狸に人が化かされる話が多い。しかし、そんな目で狐や狸を見てきたのは人間の方で、狐や狸にしてみればずいぶん迷惑なことではないか。賢治はそう感じる人だったようだ。「雪渡り」はそういう想いが語られた、人の子供と狐の子の無垢な心の出会いの話だ。
雪踏みのリズムと浮きたつ気持ち  降雪の後のよく晴れた日の野原に、四郎とかん子が遊びにでる。小さな雪沓が雪を踏む「キックキックキック」という音、そして「堅雪かんこ、しみ雪しんこ」というはやし言葉が物語全体に響いていて、このリズムから2人の浮きたつような気持ちがおのずと伝わってくる。このリズムにつられるようにして、狐の子の紺三郎が森から姿を現し、2人と紺三郎のかけあいが始まる。
子供の歌に答える狐の子






狐の子の訴え
 「四郎はしんこ、かん子はかんこ、黍(きび)の団子をおれやろか。」狐の子が歌うと、かん子が小さな声で「狐こんこん狐の子、狐の団子は兎(うさ)のくそ。」と歌いかえす。それを聞いて子狐の紺三郎は笑いながらいう。「いヽえ、決してそんなことはありません。…私らは全体いままで人をだますなんてあんまりむじつの罪をきせられてゐたのです。」
  四郎は驚いて「そいぢゃきつねが人をだますなんて偽(うそ)かしら。」と尋ねる。すると紺三郎は「偽ですとも。けだし最もひどい偽です。だまされたといふ人は大抵お酒に酔ったり、臆病でくるくるした人です。…」と熱心に説く。
狐の幻燈会に招かれた四郎とかん子  こんな具合に四郎とかん子と子狐が友達になり、2人は狐の子供たちの幻灯会に招かれる。
  幻灯会の休憩時間になって狐の女の子が2人に黍団子(きびだんご)をのせたお皿をもってきてくれる。2人はちょっと迷ってから、
 「紺三郎さんが僕らを欺(だま)すなんて思はないよ。」と食べてみる。すると、とてもおいしいのだった。まわりで、食べるかどうかじっと見ていた狐の子たちは、みな喜んで踊りだす。
キック、キックトントン、キックキックトントン…
ちくま文庫「宮沢賢治全集 8〜『雪渡り』」より

賢治作品の
リズム
異質な者に対して開かれた心
登場人物
風、雨、雪…
キツネ、ネズミ、馬…
植 物
賢治の作品世界
宮沢賢治の宇宙