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梟が語った話

物語を聞かせたい梟と見すかしている「私」
 賢治の物語の魅力のひとつは、登場する人や生き物がやりとりするセリフが生き生きとしていて、心理的なかけひきがたくみに描きだされる点にある。 「林の底」の場合にはそれが、物語を聴かせたい梟(ふくろう)とそれを知りながら、梟がどんなふうに語るかを聴いてやってもいいと思っている「私」との会話という形をとっている。

「とんびの染屋」の語り直しの工夫  「わたしらの先祖やなんか、鳥がはじめて、天から降って来たときは、どいつもこいつも、みないち様(やう)に白でした。」という語りだしを聴いて、梟が「名高いとんびの染屋」の物語を聴かせようとしているのが「私」にはすぐにわかる。 「私」は梟などをあんまり信用しないが、梟がつじつまのあった話しかたをするかどうか聴いてやっていいと思っているというように話がはじまる。
 実はこれは、「とんびの染屋」というよく知られた話を賢治が自分流に語り直すための工夫なのである。梟の話を「私」が聴いてやるという設定により、よく知られている話を新しい形で語ってみせているのだ。
「私」と梟の駆け引き  「私」は梟を挑発するような調子で言う。「どうしてそんならいまのやうに、三毛だの赤だの煤(すす)けたのだの、斯ういろいろになったんだい。」そうすると少し機嫌を悪くした梟が「三毛といふのは猫(ねこ)の方です。鳥に三毛なんてありません。」というのを聴いて、「私」はここぞと「どうも私は鳥の中に、猫がはひってゐるやうに聴いたよ。 たしか夜鷹(よだか)もさう云ったし、烏(からす)も云ってゐたやうだよ。」と追いつめる。そのうち梟はしぶしぶ自分のあだ名が猫であることを認める。そうすると「私」は、「君のあだ名を猫といったのかい。ちっとも猫に似てないやな。」などととぼける。こんな具合に「私」と梟のかけひきの描写で読者をひきこんでいく。
夜の森に鳴く梟の声  そして「私」が聴いてやる物語の語り手に梟を選んでいるのが、ピッタリのキャスティングだ。 夜の森に鳴く梟の低い声は、「西のそらには古びた黄金(きん)の鎌(かま)がかかり楢(なら)の木や松の木やみなしんとして立ってゐてそれも睡(ねむ)ってゐないものはじっと話を聴いてる」といった様子をおのずと思いうかべさせるからだ。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 6〜『林の底』」より
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