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子兎の善行と驕り

持ち主に試練を背負わせる「貝の火」
 貝の火は、子兎のホモイにはかわいそうなくらい難しい試練を負わせる贈り物だった。貝の火とは、とちの実くらいのまんまる玉で、その中に赤い美しい火がちらちらと燃えているという不思議な宝珠だ。
 持っている者の行いしだいで、火の燃えかたがより美しくなったり、勢いがなくなったりするらしいから、持ち主は容易ではない。

ひばりの子を助けて「貝の火」を贈られる  川でおぼれていたひばりの子を助けた子兎のホモイは、ひばりの親子からお礼にこの貝の火を贈られる。
 この玉を見てお父さんがホモイに言う。「これは大変な玉だぞ。これをこのまゝ一生満足に持ってゐる事のできたものは今までに鳥に二人魚(さかな)に一人あっただけだといふ話だ。
 お前はよく気を付けて光をなくさないやうにするんだぞ。」
思い上がるホモイ  しかしホモイが貝の火の持ち主になったことを知って、ほかの動物たちがホモイをおそれるようになったことを知ると、小さなホモイはすぐに思いあがって、傲慢なふるまいをするようになる。
 兎のお父さんはホモイをしかって「お前はもうだめだ。貝の火を見てごらん。きっと曇ってしまってゐるから。」というが、火は赤くさかんに燃えている。といったことが何日か繰り返される。
狐に囚われた鳥を見捨てる  そして、ある時、狐が網でつかまえたかけすと鴬と紅雀と鶸(ひは)の四ひきが入れられた硝子(ガラス)箱を狐に見せられる。鴬は硝子ごしにホモイに助けを乞うが、狐に「その箱に手でもかけて見ろ。食ひ殺すぞ。」とおどされ、ホモイは怖くなって逃げてきてしまう。
 その日から、貝の火に、小さな針でついたような白い曇りが見えはじめ、夜中には、赤い火が見えなくなってしまう。大声で泣くホモイの話を聞いたお父さんは、狐の所に出かけていき、狐にとらえられていたたくさんの鳥たちを解放する。
ホモイの失明  お父さんが「あなた方の王さまからいたゞいた玉をたうとう曇らしてしまった」と鳥たちに言って、鳥たちと貝の火を見ると、白い石になってしまっている。と思うと玉がはげしく砕けて、その粉がホモイの目に入り、目が見えなくなってしまう。
 何日もたっても目の見えないホモイにお父さんが言う。「泣くな。こんなことはどこにもあるのだ。それをよくわかったお前は、一番さいはひなのだ。目はきっと又よくなる。お父さんがよくしてやるからな。な。泣くな。」
ちくま文庫「宮沢賢治全集 5〜『貝の火』」より
作品における倫理的探究
キツネ、ネズミ、馬…
鉱 物
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