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天文マニアの狐とぼろを着た土神

ハイカラ好きと土着的な心の葛藤
 「土神ときつね」では、欧米から入ってくるハイカラな文化に憧れる心と、それに反発する土着的な心の葛藤が物語られているといえる。

むさ苦しい土神とオシャレな狐  一本木の野原の北のはずれにあるきれいな女の樺の木には、2人の友達がいた。 一人は、500歩ばかり離れたぐちゃぐちゃの谷地(やち)の祠(ほこら)に住む土神で、もう1人は野原の南の方からやってくる茶色の狐だった。土神は乱暴で、見るからにむさ苦しい風体だった。「髪もぼろぼろの木綿糸の束のやう眼も赤くきものだってまるでわかめに似、いつもはだしで爪(つめ)も黒く長い」のだという。 それに対して、狐は「仕立おろしの紺の背広を着、赤革の靴もキッキッと」鳴らすといったふうなので、樺の木にとってどちらかというと狐の方が好ましかった。
 狐と土神はどちらも樺の木に好意をもっているらしく、ときどき樺の木の所にやってきて話をする。
新しい知識をひけらかす狐  狐は天文マニアで、星雲の話を得意げにして、魚口星雲(フィッシュマウスネビュラ)を水沢の天文台で見たなどと言い、つい調子にのって「僕実は望遠鏡を独乙(ドイツ)のツァイスに注文してあるんです。」などとうそを言ってしまう。そして、ハイネの詩集を樺の木に貸して帰っていく。
土神のいら立ち  知らず知らずのうちに樺の木のことを想っている土神は、こんな狐の存在にムシャクシャする。 「おれはいやしいけれどもとにかく神の分際だ。それに狐のことなどを気にかけなければならないといふのは情ない。それでも気にかゝるから仕方ない。樺の木のことなどは忘れてしまへ。ところがどうしても忘れられない。」といったふうだった。それで、「あなたのお書斎、まあどんなに立派でせうね。」「いゝえ、まるでちらばってますよ、…あっちの隅には顕微鏡こっちにはロンドンタイムス、…」などという樺の木と狐の会話を立ち聴きして、土神の憤りはつのる。
土神が狐を踏み殺す  ある時、とうとう土神の怒りが爆発し、逃げる狐が振り返ると土神が「黒くなって嵐(あらし)のやうに追って」来る。そして、土神は狐を踏み殺し、途方もない声で泣いた。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 6〜『土神ときつね』」より
キツネ、ネズミ、馬…
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