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山の神の祭と山男

村人と異質な者とのコミュニケーション
 「遠野物語」に出てくる山男は目がきらきら光り、人々に恐れられているが、きちんと約束を守る律義な面も語られている。賢治の作品に出てくる山男も金色の目をしていて里の人から見ると異様な風体をしているものの、じつは正直で純朴な性格である。「祭の晩」では、村人にとってなじみの薄い異質な者である山男とのコミュニケーションが主題となっている。

山男の異様な様子  山の神の秋の祭りの晩、亮二は見世物小屋から出ようとして、大きな男にぶつかってしまう。その男は「古い白縞(しろじま)の単物(ひとへ)に、へんな簑(みの)のやうなものを着た、顔の骨ばって赤い男で…その眼はまん円で煤(すす)けたやうな黄金(きん)いろ」というように、異様な様子をしているので、亮二も不思議におもってしげしげとその男を見る。
山男に対する村の若者たちのいじめ  しばらくして、少し離れた掛け茶屋の方で大きな声が聞こえ亮二が行ってみると、さっきの大きな男が村の若い者たちにいじめられている。大きな男が団子を2串食べたがお金をもっていず、どもりながら「た、た、た、薪(たきぎ)百把(ば)持って来てやるがら。」と言っている。村の若者たちは「貴様んみたいな、他所(よそ)から来たものに馬鹿(ばか)にされて堪(たま)っか。」と勢いづく。若者たちは、なじみのない異質な者の弱みをつかんでやりこめる排他的な集団となっているのだ。
亮二が山男を助ける  大きな男が涙を流しているのを見て、これは正直な人だと思った亮二はしゃがんで男の大きな足に銅貨を置き、男は窮地を脱することができた。家に帰って亮二がその話をお爺さんにすると「ははあ、そいつは山男だ。山男といふものは、ごく正直なもんだ。」と笑いながら言う。
山男からの贈り物  しばらくして家の表でどしんという音がして、驚いて外に出てみると、太い薪が山のように投げだされていて、それにきらきらする栗の実も置いてある。お爺さんと亮二は、山男からこんなに貰うわけにはいかないから、今度、着物や夜具を山にもって行こうと話すと、風が山の方でごうっと鳴る。
 亮二やお爺さんは、村の若者たちと違って、異質な者である山男との開かれた相互的なコミュニケーションをつくりだしている。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 6〜『祭の晩』」より
賢治のユーモア
異質な者に対して開かれた心
風、雨、雪・・・
植 物
踊り、祭、神々
賢治の作品世界
宮沢賢治の宇宙