作品における倫理的な探究

●賢治は熱心な仏教徒でもあり、作品の中でもしばしば倫理的なテーマが現れる。子兎のホモイがひばりの子を助けて送られた「貝の火」は持ち主の行いによって火の燃え方が美しくなったり曇ったりするというし、情報通が自慢で威張っている「クンねずみ」は教え子の子猫に食べられてしまう。「洞熊学校を卒業した三人」はユーモラスな語り口で語られているが、大きいものが立派だという洞熊先生の教えをうけた、蜘蛛となめくじと狸のあわれな行く末の話である。

「銀河鉄道の夜」では、銀河をどこまでも旅する少年ジョバンニの「ほんたうのさいはいは一体何だろう」という問いが物語全体を貫いている。「学者アラムハラドの見た着物」では「人はほんとうにいヽことが何だかを考えないでゐられない」のが人間の特質だともいう。
 この問題に対するひとつの探究の方向は「すべての生き物のほんたうの幸福をさがさなければいけない」(「手紙四」)という言葉に示される。つまり、相互依存的に結びついているすべての生き物の幸福を追求しなければ個人がほんとうに幸福になることもできない、というのが賢治の倫理の基本にある考え方だったようだ。


賢治作品のユーモア
賢治作品のリズム
星や風、生き物からの
贈り物としての詩、物語
科学と詩の出会い
科学と詩の出会い・2
心のたしかな出来事
としてのファンタジー
異質の者に対して
開かれた心
子供から大人への
過渡期の文学
作品の多義性、重層性
作品における
倫理的な探究
エコロジスト的な探究
教師としての賢治
社会改革者としての賢治

宮沢賢治とは誰か  宮沢賢治の宇宙