サウザンクロス

 「さあもう支度はいゝんですか。ぢきサウザンクロスですから。」
 あゝそのときでした。見えない天の川のずうっと川下に青や橙やもうあらゆる光でちりばめられた十字架がまるで一本の木といふ風に川の中から立ってかゞやきその上には青じろい雲がまるい環になって後光のやうにかかってゐるのでした。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第7巻『銀河鉄道の夜』P.290」