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狼森と笊森、盗森

小岩井農場の北の四つの森
 狼森(オイノもり)、笊森(ざるもり)、盗森(ぬすともり)、それに黒坂森というのは、実際に小岩井農場の北にある四つの森(岩手では森は低い里山のこと)の名前だ。
この奇妙な名前の組み合わせに想像力を刺激されて、この森に囲まれた野原につくられた集落のはじまりの物語という形で賢治が語ったのが「狼森と笊森、盗森」だ。
農民と森の住人の相互依存関係





 村人の子供がいなくなったり、農具、粟(あわ)が見あたらなくなったりするという盗みをめぐって、周りの森の住人である狼、山男などと新たに住みついた農民とのやりとりがなされるが、それはとげとげしくはなく、農民と森とが依存しあう関係が牧歌的に語られている。

森から村建ての
許しをえる





消えた四人の子供










子供に対する
狼のもてなし
 森に囲まれた小さな野原にやってきて、そこが集落をつくるのによさそうだと思った農民たちは、周りの森に叫ぶ。「こゝへ畑起してもいヽかあ。」「こゝに家建ててもいヽかあ。」「こゝで火たいてもいいかあ。」「すこし木(きい)貰(もら)つてもいゝかあ。」それに森は一斉に「いゝぞお。」とか「ようし。」と答える。
 最初の冬を越し、春がきて蕎麦(そば)や稗(ひえ)をまき、秋になって無事に穀物が実る頃になって、小さな4人の子供の姿が見えなくなる。驚いた村人たちは森にさがしに行くと、一番近い狼森(オイノもり)の奧からパチパチ音がする。近くに行ってみると、火の周りで4人の子供が焼いた栗や初茸(はつたけ)などを食べ、その周りで狼たちが歌いながら回っている。大人たちが「狼どの、童(わら)しやど返して呉(け)ろ。」と叫ぶと火が消えしいんとして、子供たちが泣きす。狼たちは困って森の奧にいっていまう。大人が子供たちの手を引いて森を出ようとすると、狼が叫ぶのが聴こえる。
 「悪く思はないで呉(け)ろ。栗(くり)だのきのこだの、うんとご馳走(ちそう)したぞ。」
 農民たちも帰ってから、粟餅をつくってお礼に狼森にもっていく。
粟餅を作りたかった盗森  最後には、盗森が粟を盗み、それを見ていた銀の冠をかぶった岩手山が言う。「ぬすとはたしかに盗森に相違ない。…粟(あは)はきつと返させよう。だから悪く思はんで置け。一体盗森は、じぶんで粟餅(あはもち)をこさへて見たくてたまらなかつたのだ。それで粟も盗んで来たのだ。はつはつは。」
ちくま文庫「宮沢賢治全集 8〜『狼森と笊森、盗森』」より

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