English 窯 猫 |
猫の仲間のいじめ |
「よだかの星」のよだかが鳥の仲間のいじめられっ子であるのと同様に、「猫の事務所」の窯猫(かまねこ)も猫の仲間にさげすまれ、いじめられる。 といっても、「猫の事務所」という設定と窯猫の性癖がユーモラスであるため、「よだかの星」の場合のように痛切な調子ではない。猫仲間の愚かないじめを、語り手が批判する語り方になっている点も「よだかの星」と異なる点だ。 | |
猫の第六事務所 | 猫の事務所と聞くと何のことかと思うが、なかなか愉快なしろものだ。話の舞台である猫の第六事務所とは、猫の歴史と地理を調べる所だというのだ。 たとえば、ぜいたく猫が氷河鼠を食べにベーリング地方に行きたいがどこが一番いいかを調べてもらいにくる。そうすると氷河鼠の産地とか、ベーリング地方を猫が旅行する際の注意とかを事務長の猫がつぎつぎに質問して書記の猫が書類を調べながら答える。 「夏猫は全然旅行に適せず」とか「冬猫もまた細心の注意を要す。函館(はこだて)附近、馬肉にて釣らるる危険あり。」などといったふうである。 | |
かまどの中で眠る窯猫 虎猫の窯猫いじめ |
この猫の事務所のメンバーは、事務長が黒猫、一番書記が白猫、二番書記が虎猫、三番書記が三毛猫、そして窯猫が四番書記だった。窯猫というのは、「夜かまどの中にはひつてねむる癖があるために、いつでもからだが煤(すす)できたなく、…何だか狸(たぬき)のやうな猫」なのだ。 それで窯猫は他の書記の猫に嫌われ、意地悪をされる。虎猫が机から落とした昼の弁当を窯猫が気をきかせて拾うと、「机から床の上へ落ちた弁当を君は僕に喰へといふのかい。」と虎猫にすごまれたりする。それでも事務長の黒猫は、間に入ってくれていた。 | |
金色の頭の獅子が事務所の解散を宣言 |
ところが、窯猫が風邪をひいて休んでいる日に、他の書記の猫たちが事務長の黒猫に、窯猫は「何でもこんどは、おれが事務長になるとか云ってるさうだ。」などとあらぬ告げ口をする。 愚かな事務長はそれを信じてしまい、翌日、窯猫が事務所に出てくると、他の猫とともに窯猫を無視して仕事をさせない。昼を過ぎると窯猫はしくしく泣きはじめる。そんなところに金色の頭の獅子(しし)が現れ、「お前たちは何をしてゐるか。そんなことで地理も歴史も要(い)つたはなしでない。」と事務所を解散させてしまう。 語り手も「ぼくは半分獅子に同感です。」と言う。 |
ちくま文庫「宮沢賢治全集 8〜『猫の事務所』」より
|
|||||||||||||
|
|
|
|||||||||||