早池峰山


早池峰山

小田越から見た早池峰山(写真提供:奧田博氏)

 北上山地で一番、高い山が早池峰山(1917m)である。はるか南方から運ばれた地塊がゆっくりと隆起し、長い間の侵食作用でなだらかな丘の多い地形になった北上山地の中に、早池峰山のような孤立した高い山ができたのは、侵食されにくい超塩基性岩(かんらん岩を主とし、変成岩である蛇紋岩をともなう)からなるためだという。つまり、早池峰山も侵食作用が及ばすに残った「残丘」である(「日本の自然地域編2・東北」岩波書店)
 また、早池峰山は「高山植物の宝庫」として知られ、本州ではここだけに生育している北方系の植物が多いのが特徴だ。洪積世(200万年から1万年前)の氷河時代にシベリア、樺太、北海道などで繁栄していた植物が南下したが、その後気候が暖かくなり寒冷な高山だけで生きのびているのだという(宮城一男/高村毅一「宮沢賢治と植物の世界」)
 早池峰山は修験道の山としても知られる。


早池峰山の特産種
ハヤチネウスユキソウ
(写真提供:奧田博氏)
「この山巓の岩組を
雲がきれぎれ叫んで飛べば
露はひかってこぼれ
釣鐘人参(ブリューベル)のいちいちの鐘もふるへる
みんなは木綿(ゆふ)の白衣をつけて
南は青いはひ松のなだらや
北は渦巻く雲の髪
草穂やいはかがみの花の間を
ちぎらすやうな冽たい風に
眼もうるうるして息(い)吹きながら
踵(くびす)を次いで攀ってくる」
〜ちくま文庫宮沢賢治全集1 「早池峰山巓」


「どんぐりと山猫」


(写真提供:奧田博氏)
 「賢治フィールド・ノート」の林由紀夫さんは、「どんぐりと山猫」の一郎が住む集落は大迫町の岳集落で、山猫から手紙をもらった一郎は岳川ぞいに早池峰山に登る道を通ったと考えている。

「すきとほつた風がざあつと吹くと、栗(くり)の木はばらばらと実をおとしました。
一郎は栗の木をみあげて、
『栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかつたかい。』とききました。栗の木はちよつとしづかになつて、
『やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ飛んで行きましたよ。』と答へました。」
〜ちくま文庫「宮沢賢治全集」8


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