人首(ひとかべ)の集落



人首の集落
 江刺市の市街地から種山ケ原に向かう道の途中に人首(ひとかべ)の集落がある。さらに盛街道を種山方向に行くと木細工のバス停があり、その前に現在の木細工小学校、その並びに旧木細工中学校の古びた校舎がある。この校舎は映画「風の又三郎」のロケに使われたといい、この物語にふさわしい山間の小さな集落の学校である。人首川もすぐ近くを流れている。
 それに「風の又三郎」で子供たちが遊びに行き、嘉助が霧の中で気を失う上の原(種山ケ原)もすぐ近くにある。(「風の又三郎」の中では種山ケ原という地名は出てこないが、物語のこの部分はもともと「種山ケ原」という題名で書かれたものが原型になっている。)また、高田三郎が転校してきたのは、お父さんがモリブデンの鉱石を調べに来たからだということになっているが、林由紀夫さんによると、賢治は種山ケ原の近くでモリブデンを見つけているのだという。しかし、賢治の時代には、あいにく人首には小学校がなかったようだ。

「風の又三郎」

 「空では雲がけはしい灰色に光りどんどんどんどん北の方へ吹きとばされてゐました。遠くの方の林はまるで海が荒れてゐるやうにごとんごとんと鳴ったりざっと聞えたりするのでした。一郎は顔いっぱいに冷たい雨の粒を投げつけられ風に着物をもって行かれさうになりながらだまってその音をきヽすましじっと空を見上げました。
 すると胸がさらさらと波をたてるやうに思ひました。けれども又じっとその鳴って吠(ほ)えてうなってかけて行く風をみてゐますと今度は胸がどかどかなってくるのでした。」〜ちくま文庫「宮沢賢治全集」7


木細工中学校跡地(「風の又三郎」の映画のロケが行われた所)


イーハトーヴォの四季 イーハトーヴォの風景