なめとこ山
なめとこ山
賢治の「なめとこ山の熊」は、こんな書き出しではじまる。
「なめとこ山の熊(くま)のことならおもしろい。なめとこ山は大きな山だ。淵沢(ふちざは)川はなめとこ山から出てくる。なめとこ山の一年のうち大ていの日はつめたい霧か雲かを吸ったり吐いたりしてゐる。まはりもみんな青黒いなまこのやうな山だ。-------------鉛の湯の入口になめとこ山の熊の胆(い)ありといふ昔からの看板もかかってゐる。だからもう熊はなめとこ山で赤い舌をべろべろ吐いて谷をわたったり熊の子供らがすまふをとっておしまひぽかぽか撲(なぐ)りあったりしてゐることはたしかだ。」〜ちくま文庫「宮沢賢治全集」7
モヒカン刈りのなめとこ山(写真提供:奧田博氏)
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この「なめとこ山」がどの山なのか長い間はっきりしなかったが、奧田博さんの「宮沢賢治の山旅」によると、花巻市の佐藤孝さんが古文書にその名前を見つけ、豊沢湖の奧にそびえる860メートルの峰であることが確認された。駒頭山から中山峠、なとめこ山にかけては一帯のブナ林だったが、今では中山峠付近などをのぞき伐採されていまっている。なめとこ山も写真のように、みじめなモヒカン刈りになってしまっているという。
誰が立てたのだろうか?(写真提供:奧田博氏)
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葛丸川、台川、豊沢川
豊沢川(豊沢ダム上流)(写真提供:奧田博氏)
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宮沢賢治は地質学者であった。花巻に近い北上川の支流の葛丸川、台川、豊沢川などは、賢治の岩石捜しのフィールドである。花巻農学校の生徒達をつれて、野外学習にもたびたび行っている。
盛岡高等農林学校(現、岩手大農学部)を卒業した賢治は、教授の依頼で稗貫郡の地質調査を行う。それがなめとこ山があるこれらの川の流域で、詳細なルートマップ(地質調査の経過図)や手書きの地質図が残されている。
葛丸川(写真提供:奧田博氏)
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賢治の作品には、火山や岩の名前などの独特な表現が多い。これらの多くは専門用語であり、地学の素養があるともっと楽しめる部分である。例えば、楢ノ木大学士は業者の依頼で葛丸川へ蛋白石(オパール)を探しに行くのだし、賢治の好きなリパライト(流紋岩)は、この一帯の火山の組成となる、かつての海底堆積物と海底火山の産物である。
山でリパライトを見つけ、その山が岩手山より古い火山であることを発見し得意になっている詩もある
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