又三郎

 いきなり又三郎はひらっとそらへ飛びあがりました。ガラスのマントがぎらぎら光りました。ふと嘉助は眼をひらきました。灰いろの霧が速く速く飛んでゐます。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第7巻 『風の又三郎』P.327」

 「どっどど どどうど どどうど どどう
 青いくるみも、吹きとばせ
 すっぱいくゎりんも吹きとばせ
 どっどど どどうど どどうど どどう
 どっどど どどうど どどうど どどう」
 先頃又三郎から聞いたばかりのあの歌を一郎は夢の中で又きいたのです。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第7巻 『風の又三郎』P.349」

 北から氷のやうに冷たい透きとほった風がゴーッと吹いて来ました。
(中 略)
 「今年もこれでまづさよならって云ふわけだ。」と云ひながらつめたいガラスのマントをひらめかして向ふへ行ってしまひました。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第5巻 『いてふの実』P.82」

 にはかにそのいたゞきにパッとけむりか霧のやうな白いぼんやりしたものがあらはれました。
 それからしばらくたってフィーとするどい笛のやうな声が聞こえて来ました。
(中 略)
 「何ぁ怖っかなぃ。」
 「風の又三郎ぁ云ったか。」
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第5巻 『ひかりの素足』P.242」


 又三郎が通るところに「風」がある。 風がどうと吹く
 又三郎の友達の一郎は、山猫とその別当とも交信していた。 山猫と別当