鹿

 鹿のめぐりはだんだんゆるやかになり、みんなは交る交る、前脚を一本環の中の方へ出して、今にもかけ出して行きさうにしては、びつくりしたやうにまた引つ込めて、とつとつとつとつしづかに走るのでした。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第8巻『鹿踊りのはじまり』P.113」

 「鹿の子もよびませうか。鹿の子はそりゃ笛がうまいんですよ。」
 「あれは鹿の子です。あいつは臆病ですからこっちへ来さうにありません。けれどもう一遍叫んでみませうか。」
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第8巻 『雪渡り』P.130」

 そこで嘉十も、おしまひに栃の団子をとちの実のくらゐ残しました。
 「こいづば鹿さ呉でやべか。それ、鹿、来て喰」
 と嘉十はひとりごとのやうに言って、それをうめばちさうの白い花の下に置きました。
ちくま文庫「宮沢賢治全集 第8巻『鹿踊りのはじまり』P.111」


 臆病な鹿は、岩手の伝統芸能「鹿踊り」として今でも特別な存在となっている。 鹿踊り・剣舞
 鹿と人とをつないでいるものは? 団 子