●賢治の詩的な想像力の働き方の特徴のひとつに、キラキラとした清冽な透き通るようなイメージを好むという点がある。これは、夜空の星への強い憧れとなったり、雲間からのぞく一きれの青空やキラキラと流れる透明な水の流れとなったりする。初期の童話である「双子の星」から代表作のひとつである「銀河鉄道の夜」にいたるまで、星座や銀河を主題にした物語に大きな力が注がれている。 賢治は自分の作品を「少年少女期の終わり頃から、アドレツセンス中葉に対する一つの文学」だと言っているが、こうした清冽なイメージは、この時期の感受性に合致するのだと思われる。 ●アドレッセンスつまり子供から大人への過渡期にある若者は、しばしば大人の社会の秩序に同化することを嫌い、同世代の仲間たちとともに既存の秩序から離脱して、哲学的、倫理的、芸術的、政治的な懐疑や探究をぎりぎりのところまでつき詰めようとする。 ●「銀河鉄道の夜」では、ジョバンニと友人のカムパネルラが夜空を走る銀河鉄道で旅をし、ジョバンニは二人でどこまでもどこまでも行きたいと願う。これはアドレッセンス期の若者たちが日常の生活圏から離脱し極限に向かう旅である。そして、この旅の過程では、「ほんとうの幸いとは何だろう」という倫理的な主題の探究が執拗になされる。このように「銀河鉄道の夜」は、子供から大人への過渡期にある若者たちの異次元への旅と極限的な探究の物語であると考えることができる。
●鳥の仲間から嘲笑される地上での生活から逃れて、空をどこまでも飛んで星になろうと願う「よだかの星」の物語も、ある意味で「銀河鉄道の夜」と似た特徴をもつ。 |
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