星や風、生き物からの
     贈り物としての詩、物語


●賢治は地質学者としての訓練を受けたフィールドワークの人であり、山や森や野原に出かけることを好んだ。そして、そうした野外の旅や散策は、植物や鉱物を採集したり、天体を観察する機会であるだけでなく、星や風や生き物たちから詩や物語のもとを与えられた。
 物語の登場人物のように、風の音の中から誰かが語りかける声を聞きとったり、疲れて眠って、まわりの岩が語り出すのを聴いたりもしたのだろう。

●賢治の心は星や虹、風や雲、生き物、鉱物などさまざまなものと交感し、そこから詩的なインスピレーションを得ているが、「風とゆききし 雲からエネルギーをとれ」と「農民芸術概論綱要」で書いているように、風や雪、雲といった気象のエネルギーに強く感応する人だった。
 賢治の代表作のひとつである「風の又三郎」では風が重要な主題となっている。また、「鹿踊りのはじまり」、「サガレンの八月」、「氷河鼠の毛皮」など風の音から物語を聴きとるというはじまり方の話もある。

●また、賢治の物語には地上の生き物が天界の星や太陽に憧れるというものが多い。地上の生き物どうしが交感しあうだけでなく、地上の生き物が気象や天界と交感しあい、宇宙的な連関のうちにある自らを見いだすというのが、賢治に特徴的な詩的な想像力の発揮され方のひとつである。


賢治作品のユーモア
賢治作品のリズム
星や風、生き物からの
贈り物としての詩、物語
科学と詩の出会い
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