●賢治の作品の世界に読者をひき込むもうひとつの強い吸引力は、心に訴えるリズムが作品の中から聴こえてくることである。 「風の又三郎」であれば、「どっどど どどうど どどう」という歌ではじまり、この歌が物語の主題を知らせるし、「雪渡り」では、「キックキックトントン」と雪を踏んで踊るリズムが人間の子供と狐の子の心おどる気持ちと一体になっている。 また、「鹿踊りはじまり」で鹿がうたう歌のように、リズミカルな歌が物語の中で重要な役割を果たすことも多い。 ●賢治の作品では、鳥の鳴き声がかもしだす雰囲気も巧みに生かされる。たとえば、「林の底」では、夜の静かな林で低い声で鳴く梟に物語の語り手の役が振られている。「二十六夜」では、夜の林で梟の坊さんがお経を読む。 ●賢治は欧米の音楽に強い関心をもちベートーヴェンの曲を愛好し、チェロの演奏を習ったりもしている。演奏家を主人公にした「セロ弾きのゴーシュ」は、へたな演奏家だったゴーシュが音楽に関心を示す鳥や猫、狸、ネズミを相手にするうちに、音楽の魂を学ぶという話だ。 |
|
|