賢治の物語の多くは、読者をいっぺんに捉えてしまうユーモラスなイメージに富んでいる。かまどの中に入って眠る癖のある窯猫とか、顔を洗わない狸とか、山猫から一郎にきたへたな字のおかしな葉書とか、蛙の雲見とか、奇抜な要素の組み合わせから魅力的なイメージがつくりだされる。 しかも、賢治の作品のユーモアには、さまざまな調子のものがある。たとえば「猫の事務所」の窯猫はユーモラスな感じと悲哀が混じり合っているし、「洞熊学校を卒業した三人」ではとぼけたユーモアと不気味さが重なりあっている。また「タネリはたしかに…」には、言葉がまだしっかりしていない、好奇心に富んだ小さいタネリのでたらめな歌や木や鳥、母親とのユーモラスなやりとりの面白さがある。 |
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